ユルユル女子のつぶやき。

ex.Baby Leaf│ex.バンドマン│のひねくれた性格からエッセイ的なの書いてみました。

「午後11時の証言」

「最低女」と呼ばれて

この8年間を生きてきた。

 

 

つい3日前の事。

私の人生を大きく変えることとなったある人物から

facebookでメッセージが来た。

よく見てみるとひと月前にも来ていたが

「誰だこいつ。出会い厨かよ。」と、スルーしていた。

その名前もその顔も、もう何も思い出せなくなっていたことに今更驚く。

 

 

彼は23歳だった。

いつも同じ水着に濡れた髪。

お酒の飲みすぎか、少しお腹が出てきている。

子供への笑顔はどこか怪しげで、私は普段どんな人なんだろうと興味を持っていた。

夜7時に練習が終わると

私はいつも通り、使っていたビート板を片付けに行く。

早くシャワーを浴び、さっさと帰って夕飯を食べたい時間だ。

いつもより早歩きになり、濡れた体に冷たい風が当たる。

右手を彼に掴まれたのは

ずらりとビート板が並んだ棚の数歩手前だった。

「メアドおしえてよ。」

確かそう言われた気がする。

はっきりとは覚えていないが

「え、あ、はい…。」

と答えた私は瞬時に何かを期待した。

それから彼への恋愛感情が生まれるまで

そう時間はかからなかった。

 

 

練習が終わると、友達には「先に帰る。」と伝え

そそくさと駐車場の端へ隠れる。

夕方のジュニアクラスでは子供の練習を一目見ようと、親御さんの車で満車になるこの駐車場も

夜7時を越えるクラスとなると、さすがにギャラリーも少ない。駐車場はほとんどがら空き状態だった。

火曜と金曜にしか会わないその彼は

お世辞にもイケメンとは言い難い。

何に惹かれているのか、自分でもあまりわからない。

だが、車の助手席、好きな人の運転、たばこ、おさけ、一人暮らしの家、ワンルーム

全てが新鮮で新しく見えた。

と同時に、同級生の子たちへの優越感も感じていた。

中学3年生だった。

 

 

愛だの恋だの、そんなことはどうでもいい。

私は気づいていた、彼には私以外に大切な人がいるということ。

そして彼も私がそれに気づいていることを知っていた。

初めて彼の家へ行った時だ。

テレビの前の写真立てが倒れていたから、純粋な気持ちで直そうと思った。

なぜ倒れているのかなど考えもせず、

中腰になり、ゆっくりと手を伸ばすと

そこには彼と彼の母親、そして私もよく知る女性が写っていた。

胸が締め付けられるような感覚。

怒りではない、悲しみでもない、なんとも言えないこの気持ちのやり場を私はまだわからなかった。

彼には何も言わずにいたが、

倒れていたはずの写真立てが立っているということはどういうことなのか

彼も理解はしていただろう。

 

 

だが、その後も何も聞かず、何も言わないまま

4ヶ月程、彼との関係は続いた。

世間が年越しの賑やかさを徐々に忘れ、街がいつも通りの穏やかさを取り戻す頃、

私はいつも通り練習が終わり、駐車場の端へ隠れていた。

「お疲れ、待った?」

声のする方を振り向くと私は笑顔で首を振った。

その夜、彼は私を家にも連れていかず、車にも乗せず、私を公園へ連れて行くと、ベンチに座り、私の腕を引っ張って膝に乗せた。

不安定だがタイツ越しの太ももから伝わる体温が私の口元を緩める。

彼は私をぎゅっと抱きしめると

もう記憶にもないどうでもいい事を言った。

その時、私はなんとなく愛されていないような気がした。薄っぺらい言葉が冷たい風に乗って耳へ侵入してくる。私は愛が冷めるのを感じ取った。

「ねぇ。私は彼女になれないの?」

咄嗟にでた言葉だった。彼と今後も一緒に居たいと心から願っていたなら口からこぼれる言葉ではない。私ももうどこかで「もーいいや。」という感情はあっただろう。

だが、全てをぶった切って話したわりに彼はそこまで驚いた様子もない。

予想していたのかもしれない。むしろ4ヶ月も何も言わないでいた事に感心さえされていたかもしれない。

彼は小さなため息をついた。一月の冷たい夜の風が抱きしめる腕を緩めた彼との間に流れ込む。

背筋がすっと寒くなった。

「高校生になってくれるまでダメかな…。」

私はつばを飲んだ。心が苦しくなる。分かっていた。どうせ付き合ってはくれないと。

でも分かっていたからこそ、今まで口に出してこなかった。弱々しくもあるが、はっきりとしたその言葉はしっかりと心に突き刺さっていた。

 

 

 

大人の矛盾は嫌いだ。

大人は身勝手だ。

都合よく遊んでいただけ。

ただ奪われるものだけ奪われ、結局何も貰えやしないじゃないか。

 

 

私は電車に乗った。

既に車で送ってもらうことさえ無くなっていたことに気づかなかった自分が怖くなる。

恋は盲目、と言えども私は中学生。

大人にとって、同じ大人をおもちゃにするより

断然安くつくだろう。そして容易に手に入る。

私は付け込まれていた。自分の弱さに、自分の甘さに、そして優しさに。

急に腹が立ってくると、そんな人か。と思った瞬間、長く感じていた彼への興味は失せていく。

失せれば失せるほど、全てを奪った彼への怒りは収まらなくなっていった。

私はスクールを辞めた。

私と彼の関係に勘づいてた人も居て、ちょっといづらくなっていたのは確かだ。

それにもう中学卒業、春からの高校生活は気持ちを入れ替え、頑張りたいと思っている。

だが、一つだけ、子どもの私ができること。

 

 

「もしもし、私、こないだ退会したスクール生なんですが、支配人いますか?」

「あ、私ですが、」

私は真実をすべて話した。

生々しくも彼の言った言葉も全て話した。

 

 

彼は富山に飛ばされたと聞いたが

職を奪いたいと思っていた私にとってはなんとも不服な結果だ。

 

 

そんな彼が8年越しに連絡してきたというので

私は少し怖くなった。

「会いたい。」

 

 

なーんだ。しょーもない。

 

 

私は鼻で笑うと、メッセージアプリごと削除した。